2017年日本語ラップ楽曲ランキング・コメント
日本のヒップホップのリリース情報などをまとめているMise Colvicsさん(大変重宝しております)が毎年やっているランキング企画にお誘いいただき、今年のベストアルバム・ベストソングについてランキングを作りました。
2Dcolvics : 2017 BEST ALBUMs In 日本語ラップ (Selected by hzm)
2Dcolvics : 2017 BEST SONGs In 日本語ラップ (Selected by hzm)
とくにそれ以上のことがあるわけではないのですが、ベストソングランキングについて自己満足兼備忘録として一言コメントを作ってまとめています。
それほど変な曲とかめちゃくちゃマニアックな曲とか選んでる訳でもないし、面白いランキングかというとそうでもないかという気もしますが、気になる方は以下ご笑覧ください(MV等のある楽曲はリンクを貼っています)。
1:ELLE TERESA - Bad Bitch 19 Blues
安室奈美恵が引退発表した年にリリースされていたタイトル通りの大ネタ使い。しかしながら安易なサンプリングではなく本家通りの「少女と大人の間にいる19歳」というコンセプトがエルテレサの言葉で綴られたエモチューン。
1バース目の最後の
「high school skirt 捨てちゃったわさようなら
短く切ったhigh school skirt いなくなったあたしのパパ」
とかさらっと激ヤバいラインだなーと思う。
エルテレサはteenのカリスマになってほしいけどこの曲はくたびれたおっさんに聴いてほしいなと思う。
『PINK TRAP』CD版のみに収録。在庫があるうちに買っておきましょう。
2:C.O.S.A. - 1 AM in Asahikawa
良い歌詞は「俺と違う!かっこいい!」という感情を呼び起こすものもあれば、「俺と同じだ、わかる!」という感情を呼び起こすものもある。
そして、ストリートのラッパーの魅力は、時にそれを両立させてしまうところにある。誰もが知るなんとない寂しさを誰よりもかっこよく綴る。ライブで聴くとさらに刺さりました。
Gradis Niceのトラックも冬の空気感に完璧に合っていてパーフェクトで、たぶんワンループなのもすごい。
3:唾奇×Sweet William - Made my Day
鬱さ、クズさ、ダメさをあけすけに語りながらも前向きなダメ人間アンセム。
あと、道(Soulera Remix)はRemixだけど原曲とそんな違いがないかな~と思ってランキング入れなかったけどたぶん今年いちばん聴きました。素直に入れとけばよかったかな。
4:OZROSAURUS - THIS IS MY ERA.
だいたいこちらに書きたいことを書いています。
今年のSALUは八面六臂の大活躍でしたが、この曲はとくにキャッチーかつ客演の使い方もうまく、浮遊感・高揚感があってクラブに行きたくなる感じがほんとに素敵だったなと。
6:Awich - Remember feat. YOUNG JUJU
今年いちばんクラブでかかった日本語ラップではないかと思う。
YOUNG JUJUはBPM速いのやってほしいな~と思ってたらバッチリ。
ただノリがいいだけの曲ではなく、Awich姐さんの
“楽しむことへのguilt ずっと抱えながら生きるの?
Don't you don't you know that that will kill you slow”
ってとこでグサっと来る。MVにそんなやつはあっち行ってよって字幕出てくるのもつらい。
7:JUNKMAN - 啓示の書 feat. DOGMA
“伝染病 幻覚 洗脳 条件 現金 裏情報
病原菌 新種 未確認 証言台 始末 血祭り
環状線 翻弄 心臓部 心拍数 急上昇
毛細血管 圧迫 衝動 恍惚 交換 代償 抹殺”
8:CHICO CARLITO - 月桃の花が枯れる頃
Olive oilの南国感ある変態トラック、それを縦横無尽に乗りこなすチコのスキル、沖縄のメッセージを乗せたリリック。暑くて熱い。
9:鬼 - 壊れた玩具
鬼にしか書けない世界観、鬼にしか使えない言葉、鬼にしか歌えない表現力、全部揃ったマスターピース。トラックもドンピシャな選球眼。
10:Tofubeats - LONELY NIGHTS
最近トーフ氏とタメなのがコンプレックスで壁を殴っている。オンリートゥエンティセブンまだ殴り足りない。
11:ELLE TERESA - MAKE UP
男に媚びるわけでもなく、男社会に男と同じように適合するわけでもなく、カワイイゆえに強い女の子になる、そのためのメイクアップ、というこの曲で示されたアティチュードはひとつの立場として重要であり、かつあまり表現されてきていないものではないかと思う。
12:MONYPETZJNKMN feat. AWICH - WHOUARE
リリース以来気づいたら独り言でわーいあいあーって言いがちな半年だった。
13:DMF - DMF ANTHEM
エモいトラックに乗ったワルいやつら三者三様のかっこよさ。
14:JJJ - Orange feat. STICKY
JJJを介して東大院卒STUTSパイセンとSTICKY from SCARSが繋がるというのはヒップホップというフィールドのなせることだなと思う。
15:ゆるふわギャング - Escape to the Paradise
トラックの歪に騒々しい感じが、どこかわからない楽園へ向けて脱走したい心持ちにハマっているなーと。ワンマンで見てめちゃくちゃエモかった。
16:DINARY DELTA FORCE - WHEN IT’S OVER
ベース効いてるブームバップサウンドでめっちゃすき。4MCとの相性バッチリ。
17:Febb as Young Mason - Operation Survive
Febbこんなリリシストやったん!?ってなる。
シャバに戻ったみたいなのでまた精力的な活動に期待。
18:C.O.S.A. - Girl Queen
言葉遣いがとにかく粋でヒップホップなラブソング。結婚式で定番になってほしい。
19:NENE - Shinagawa Freestyle
チルいアルバムの流れに合ってないかもしれないけれど、それも合わせて、不穏なトラックと赤裸々な内容で一発で耳に焼き付く曲。
20:GADORO - 虫ケラの詩
バトルMCのバトルっぽい曲部門(狭い)では他の追随を許さないGADORO。これはとくにお気に入りでかなり聴いてた。下剋上スタンスに手堅い押韻、訛りを活かしたフローもいい感じ。
ポエトリー路線よりこういうアグレッシブな曲が合ってると思うけど、KOKでこの手のビートをもらわないとあんま作らなそうなのがちょっともったいない。
全体的に
フロー・ビジュアル・生まれ育ちといった、キャラクターのアクの強さを香味野菜と煮込んでこまめにアク取りしたりしなくてもそのまま食わせられるのがヒップホップというジャンルのいいところのひとつだなと思っていますが、その点で2017年はELLE TERESA、唾奇、NENE(Sophiee)、DMFの3人といったアクトのアクの強さに惹かれたんなという感じ。「啓示の書」で強烈なアクを全力に放ってたDOGMAもぼちぼち自己名義のリリースしてほしいなと思う。
THIS IS MY ERA. / OZROSAURUSについて
なんとなく高校野球を好きになり、なんとなく横浜高校を好きになり、筒香を追いかけ、気づいたらプロ野球も横浜ファンになり、約何年経っただろう。
いつ抜け出せるかも分からない最下位の時代から、親会社の交代を経て状況は確かに前に進んでいき、2年連続のCS進出をへて、3位から下剋上のCS突破を決め、日本シリーズで素晴らしい勝負を繰り広げたことは周知の通りである。(善戦はしたものの、勝ち慣れていないと最初は「マジで出ていいの!?」みたいに困惑してしまったのも確かなので、来年は文句なしのリーグ優勝からのCS通過、日本シリーズ優勝といきたい……)
横浜ファンとしてはまだまだ新参くらいの気持ちであるが、日本のヒップホップのファンでもある私には今年の横浜ベイスターズを語るうえで欠かせないものがある。それは無論、今年のチームスローガンをもとに公式ソングとして作成されたOZROSAURUSの「THIS IS MY ERA.」である。
ニュースの特集において、横浜DeNAベイスターズ広報担当の里見氏は「自尊心の高いスローガンであり、HIPHOPのカルチャーやラップにリンクするのではないかと思った。MACCHOの言葉は球場でも一言一句が伝わる」とその起用理由を語っている*1。
球団テーマソングにかけた想い(THIS IS MY ERA) - YouTube
MCのMACCHOの圧倒的なスキルとフローにより吐き出される情熱的な言葉は、ヒップホップファンでない野球ファンの心にも響くものであったと思う。さらに、そのバースをじっくり聴いてみると、ただの情熱の発露にとどまらないヒップホップのイズムが潜まされている。
MACCHOがこの楽曲に書き下ろしたリリックはプロ野球チームのテーマソングでありながら、「ホームラン」「一球」といったような野球に関する名詞を排している。代わりに「横浜なめたらただじゃ済まさない」という象徴的なフレーズに示されるように、横浜という土地を誇り、熱くRepresentすることで地元にこれまで以上に深く根ざさんとする球団のテーマソングとしてそれを成立させる*2。
そして、そのことは、この楽曲を単なる野球応援歌に留まらせず、それをそのままヒップホップの楽曲として通用させる普遍性を備えさせることに繋がっている。
「曲げない自分の生き様 続く綴るドラマ」
「負けっぱなしで終わらせない 歴史は去り 腹くくり覚悟決めた戦い 街を背に背負い 土地柄なら熱い 横浜なめたらただじゃ済まさない」
これらのリリックは、親会社の交代によって横浜DeNAベイスターズとなり、最下位脱出、CS進出、そして日本シリーズへと着実に強くなっていった球団の歩みを描くものでありながら、同時に、日本におけるヒップホップシーンが東京/渋谷中心であった時代に地元横浜をレペゼンし、東京に同化しない横浜という土地のヒップホップの存在を世に知らしめたMACCHO・OZROSAURUSの歩み *3 に重なるものになっている。「立ち止まらない 走り続けてくRollin’ 」というフレーズも言うまでもなく1st album「Rollin' 045」に由来するだろう。
「リリックの中身は自分の分身 どの口が何言うかが肝心」(Beats & Rhyme)*4というMACCHO自身のパンチラインの通り、MACCHOはこの楽曲のリリックの中身を単なる応援歌にとどまらない自分の分身そのものとして、言葉に力強さを持たせている。
しかしながらそれは無論MACCHO以外の主体をこの楽曲から排するものではなく、同時に横浜を愛する人間の誰にとっても「自分の分身」となるリリックである。
個人的にはヒップホップの営みとして「特殊性から普遍性を生み出す」ことが重要だと考えているのだが、まさにその優れた実践の1つである。
本当にベイスターズ広報はこれ以上ない人選をしたと思う。来年のスローガンがどうなるのか、起用が続くのかは分からないが、今季限りとなるのも惜しい。ちょくちょく聴けるといいなあ。
ともかく、ヒップホップファンがこれをきっかけに野球を観たり横浜を応援するようになったり、野球ファンがこれをきっかけにヒップホップに関心を持ってくれたりすると僕はとても嬉しいです。サ上とロ吉にもなんかオファーきてほしいっすね。
*1:2015年6月25日に行われたDEV LARGEの追悼イベント「D.L PRESENTS HUSTLERS CONVENTION NIGHT」で、RHYMESTERの宇多丸は朝日新聞にDEV LARGE追悼記事を依頼されたことを語り、「朝日新聞の記者がさんピン世代だったりする。ちゃんと俺達は世の中を変えてきたんだよ、チャートとか売れ行きに関係なく確実に変えた、そのことをコンちゃんに教わった」と説いている。そういう「確実な変化」を感じられる起用であったと思う。RHYMESTER「B-BOYイズム」〜「リスペクト」 @ SOUND MUSEUM VISION (2015.06.25) - YouTube
*2:なお、続編の「OUR TIME IS NOW.」は少し野球要素が加わっている。 OUR TIME IS N.O.W. -すべては、この時のために- - YouTube
*3:サイプレス上野のLEGENDオブ日本語ラップ伝説「第11回 ─ 俺たちの街・横浜のヒーロー~OZROSAURUS『ROLLIN'045』」 http://tower.jp/article/series/2008/10/09/100047355 などで、実感とともに語られている。