なんかすごい(仮)

なんかすごいこととかについてなんかかく

THIS IS MY ERA. / OZROSAURUSについて

 なんとなく高校野球を好きになり、なんとなく横浜高校を好きになり、筒香を追いかけ、気づいたらプロ野球も横浜ファンになり、約何年経っただろう。

 いつ抜け出せるかも分からない最下位の時代から、親会社の交代を経て状況は確かに前に進んでいき、2年連続のCS進出をへて、3位から下剋上のCS突破を決め、日本シリーズで素晴らしい勝負を繰り広げたことは周知の通りである。(善戦はしたものの、勝ち慣れていないと最初は「マジで出ていいの!?」みたいに困惑してしまったのも確かなので、来年は文句なしのリーグ優勝からのCS通過、日本シリーズ優勝といきたい……)

 横浜ファンとしてはまだまだ新参くらいの気持ちであるが、日本のヒップホップのファンでもある私には今年の横浜ベイスターズを語るうえで欠かせないものがある。それは無論、今年のチームスローガンをもとに公式ソングとして作成されたOZROSAURUSの「THIS IS MY ERA.」である。

www.youtube.com

 ニュースの特集において、横浜DeNAベイスターズ広報担当の里見氏は「自尊心の高いスローガンであり、HIPHOPのカルチャーやラップにリンクするのではないかと思った。MACCHOの言葉は球場でも一言一句が伝わる」とその起用理由を語っている*1

球団テーマソングにかけた想い(THIS IS MY ERA) - YouTube

 MCのMACCHOの圧倒的なスキルとフローにより吐き出される情熱的な言葉は、ヒップホップファンでない野球ファンの心にも響くものであったと思う。さらに、そのバースをじっくり聴いてみると、ただの情熱の発露にとどまらないヒップホップのイズムが潜まされている。

 MACCHOがこの楽曲に書き下ろしたリリックはプロ野球チームのテーマソングでありながら、「ホームラン」「一球」といったような野球に関する名詞を排している。代わりに「横浜なめたらただじゃ済まさない」という象徴的なフレーズに示されるように、横浜という土地を誇り、熱くRepresentすることで地元にこれまで以上に深く根ざさんとする球団のテーマソングとしてそれを成立させる*2

 そして、そのことは、この楽曲を単なる野球応援歌に留まらせず、それをそのままヒップホップの楽曲として通用させる普遍性を備えさせることに繋がっている。

「曲げない自分の生き様 続く綴るドラマ」

「負けっぱなしで終わらせない 歴史は去り 腹くくり覚悟決めた戦い 街を背に背負い 土地柄なら熱い 横浜なめたらただじゃ済まさない」

 これらのリリックは、親会社の交代によって横浜DeNAベイスターズとなり、最下位脱出、CS進出、そして日本シリーズへと着実に強くなっていった球団の歩みを描くものでありながら、同時に、日本におけるヒップホップシーンが東京/渋谷中心であった時代に地元横浜をレペゼンし、東京に同化しない横浜という土地のヒップホップの存在を世に知らしめたMACCHO・OZROSAURUSの歩み *3 に重なるものになっている。「立ち止まらない 走り続けてくRollin’ 」というフレーズも言うまでもなく1st album「Rollin' 045」に由来するだろう。

 「リリックの中身は自分の分身 どの口が何言うかが肝心」(Beats & Rhyme)*4というMACCHO自身のパンチラインの通り、MACCHOはこの楽曲のリリックの中身を単なる応援歌にとどまらない自分の分身そのものとして、言葉に力強さを持たせている。

 しかしながらそれは無論MACCHO以外の主体をこの楽曲から排するものではなく、同時に横浜を愛する人間の誰にとっても「自分の分身」となるリリックである。

 個人的にはヒップホップの営みとして「特殊性から普遍性を生み出す」ことが重要だと考えているのだが、まさにその優れた実践の1つである。

 本当にベイスターズ広報はこれ以上ない人選をしたと思う。来年のスローガンがどうなるのか、起用が続くのかは分からないが、今季限りとなるのも惜しい。ちょくちょく聴けるといいなあ。

 ともかく、ヒップホップファンがこれをきっかけに野球を観たり横浜を応援するようになったり、野球ファンがこれをきっかけにヒップホップに関心を持ってくれたりすると僕はとても嬉しいです。サ上とロ吉にもなんかオファーきてほしいっすね。

*1:2015年6月25日に行われたDEV LARGEの追悼イベント「D.L PRESENTS HUSTLERS CONVENTION NIGHT」で、RHYMESTER宇多丸朝日新聞DEV LARGE追悼記事を依頼されたことを語り、「朝日新聞の記者がさんピン世代だったりする。ちゃんと俺達は世の中を変えてきたんだよ、チャートとか売れ行きに関係なく確実に変えた、そのことをコンちゃんに教わった」と説いている。そういう「確実な変化」を感じられる起用であったと思う。RHYMESTER「B-BOYイズム」〜「リスペクト」 @ SOUND MUSEUM VISION (2015.06.25) - YouTube

*2:なお、続編の「OUR TIME IS NOW.」は少し野球要素が加わっている。 OUR TIME IS N.O.W. -すべては、この時のために- - YouTube

*3:サイプレス上野のLEGENDオブ日本語ラップ伝説「第11回 ─ 俺たちの街・横浜のヒーロー~OZROSAURUS『ROLLIN'045』」 http://tower.jp/article/series/2008/10/09/100047355 などで、実感とともに語られている。

*4:MACCHO , NORIKIYO , 般若& DABO / Beats&Rhyme - YouTube